よんだほん

本の内容をすぐ忘れちゃうので、記録しておくところです。アフィリエイトやってません。念のため。

行動経済学の使い方

行動経済学の使い方 (岩波新書)

行動経済学の使い方 (岩波新書)

 公共政策分野において、行動経済学は切っても切れないものだと感じる。例えば交通安全におけるソフト的なアプローチ(要するに啓発・啓蒙活動)を考える。金銭的なインセンティブを使わずに、人の意識行動に働きかけるにはどうすれば良いだろうか。ただ単に「危ないです!安全運転しよう!」と叫び続けても、事故が一向に減らないのはご承知のとおりである。このときに、行動経済学的なアプローチが役に立つだろう。ところが普段我々はどこまで行動経済学的な発想を持ち仕事をしているだろうか。

 本書「行動経済学の使い方」では、行動経済学の基本理論から、具体的な使用例までを網羅的に概観することができる。行動経済学は、伝統的なミクロ経済等が考えてきた合理的経済人と、実際の我々人間の行動の差異を、各種実験を通じて明らかにしてきた。例えば、新型コロナウイルスのような感染症を想定する。「90%の人は重症化しない」と「10%の人が重症化する」というのは、全く同じことを言っている。伝統的な経済学では、どちらの表現でも人々は同じ行動をするということを想定する。しかし、行動経済学で明らかになったことは、この表現の違いで、人々の行動は変わるのである。その意味でいうと、経済学とはいいつつ心理学的な要素を含む印象を受ける。

 本書の中で紹介されている理論は多岐に渡るが、例えば、
 ・確実性効果:確実なものを好む傾向
 ・損失回避:損失が起きている段階では、むしろリスクを厭わず、損失を回避しようとする傾向
 ・フレーミング効果:表現方法に引っ張られる傾向(冒頭の例)
 ・保有効果:既に所有している物の価値を高く感じる傾向
 ・現在バイアス:遠い将来のことよりも近くの将来のほうが魅力的に感じる傾向
 ・社会的選好:利他性・互恵性。他人の利得から効用を得る(幸せに感じる)傾向
 ・アンカリング効果:最初に与えられた数字を参照点として、意思決定が左右される傾向
等が挙げられる。これらの行動経済学の理論を活用し、人々にアプローチする手法を「ナッジ」と呼ぶ(逆にこの理論を悪用したアプローチをスラッジと呼ぶ)。ナッジは、人の選択肢を奪わずによりよい選択を促す手法である。

 そしてようやく実践的なお話で、ナッジの作り方について考える。まず、考えるべきは、その意思決定・行動になっている理由(ボトルネック)を考えることだ。例えば紹介されたのは、避難所への避難をどう促すか。考えられるボトルネックは「自分だけは大丈夫」という現在バイアス的なことが考えられる。なお、ボトルネックはその人その人が置かれているケースにも影響を受けるので、これ1つだけではないことに注意しなければならない。

 そしてあぶり出されたボトルネックへのアプローチを考える。アプローチを構築するとき、意識すべき点がある。それは、Easy(簡単なものか)Attractive(魅力的なものか),Social(互恵性に訴えているか),Timely(ベストタイミングか)の4つの頭文字を取った「EAST」である。イギリス政府のナッジのチームが考案したもので、各種フレームワークの中でも最もポピュラーなもののようだ。例えば避難所に避難しない人に対しては、「あなたが避難することで、周りの人も助かります」といったような互恵性に訴えることが1つのナッジとなりそうだ。

 理屈だけをみれば、問題なく理解はできる。しかし恐らく効果的なナッジを作れるようになるためには、ある程度のトレーニングが必要だと思われる。環境省や、横浜市では、公共政策に向けてナッジ活用の研究を行う自主的なグループが存在するようだ。弊市でもこれ、考えたほうがいいんじゃないだろうか。あるいは人事研修にいれてみてはどうだろう。

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